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千葉地方裁判所 昭和59年(わ)316号 判決 1985年3月19日

主文

被告人石井新二を罰金二〇万円に、同渡邉哲夫を罰金一五万円に各処する。

被告人らにおいて右罰金を完納することができないときは、金五〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

訴訟費用は被告人らの連帯負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人石井新二は、三里塚芝山連合空港反対同盟の同盟員として、また被告人渡邉哲夫は、右同盟を支援する者として、かねてから新東京国際空港の建設反対闘争に加わつているものであるところ、被告人両名は、芝山町議会昭和五九年三月定例議会開催日である同月一七日に、いわゆる成田空港二期工事促進に関する決議案が保守系議員から提案されそうな動きを察知し、仲間の反対同盟員らと共にその件に関する議会審議の模様を傍聴すべく、前日である一六日のうちに同議会事務局へ傍聴券をほしい旨電話で予告連絡をしておいた上で、翌一七日午前九時頃千葉県山武郡芝山町小池九九二番地所在の同町役場へ行き、一階事務室カウンターで係員に対して傍聴券の交付を求めたが、応対に出た役場職員らから、「もう三枚しかない。」とか、「すべて交付済で残つていない。」とかの返事があるだけで、当日の傍聴券が総数何枚発行され、何時からどの様に交付され、その結果もう残つていないというのか等の点について何度尋ねても何らの説明もされず、そのため、これは当日の議会に前記の二期工事促進決議案が提案されることが確かでこれを迅速に可決成立させるために保守系議員らがさきに傍聴券の大半の交付を受け、反対派を傍聴席から事実上締め出そうとし、これに議会事務局も同調しているためではないかとの疑念を強めて更に傍聴券が交付済である事情の説明を求めたが、担当職員からはついに応じてもらえず、同日午前一〇時ころには議会開会等を告げるベルも鳴り、それにもかかわらずはつきりした説明がされず苛立つているところへ加えて、庁舎内からの退去命令が発せられ、その執行にあたる警察官らから被告人らや仲間の反対同盟員らが庁舎外へ押し出されようとしてもみ合いとなつたため、被告人石井は、この上は、当時発議案第一号「新東京国際空港の早基完成と周辺対策事業の充実及び敷地内農民騒音地域住民との話し合い促進に関する決議案」等を審議中であつた同町議会本会議場内に入つて議長に傍聴券が交付されない理由を直接問いただす以外に打開策はなく、そのことによつて議事の進行を妨害することになつてもやむを得ないものと考え、同日午前一〇時二四分ころ、右芝山町役場庁舎内において、議会棟に通ずる入口扉前に至り、本会議開会中のため同入口扉が内部から施錠され、一般の立入りが禁止されていたのに、同町長真行寺一朗管理にかかる同入口扉のガラス一枚(縦約八〇センチメートル、横約六八センチメートル)を蹴破り、もつて器物を損壊し、続いてそのガラスの割れ目から手を差し入れて同入口扉の施錠をはずし議会棟の中に入ろうとし、そのころ、この状況に気付いた被告人渡邉哲夫ほか数名のものらもこれに従う態度をとつて順次共謀の上、被告人石井を先頭にし、同渡邉を含む数名の者がこれに続いて同入口扉から議会棟内の廊下を経て議場南西側入口から議場内に乱入し、もつて同町長管理にかかる建造物に侵入し、折から前記決議案を議事日程に追加して議題にするかどうかを審議していた議場内で、被告人石井新二は大声で、「何だお前ら」と怒鳴りながら議会事務局長席に近寄つて同席のマイクを手で掴み引つ張つてそのコードを引きちぎり、さらに議長席につめよつて同町議会議長石山衛に対し、「議長、なんだこのざまは」、「傍聴人のいない議会があるかよ」、などと怒鳴りつけ、次いで、議会に出席していた前記町長に対し、「こんな議会があるか」、「町長、なんだこのざまは」などと怒鳴りつけるなどし、またその間、被告人渡邉哲夫ほか数名らにおいても演壇下付近から議長席に向つて口々に「こんな議会あるか」、「横暴だ」、「傍聴人を入れろ」、「なぜ傍聴人を入れないんだよ」などと大声で叫んだり、怒鳴つたりして、同日午前一〇時三〇分ころまでの約六分間にわたり、度重なる同議長の制止と退場命令に従わず、同議場内演壇下付近において喧騒しつつ滞留し、同町議会の議事を不能ならしめて、もつて威力を用いて同町議会の業務を妨害したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

被告人石井新二の判示器物損壊の所為は刑法二六一条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、被告人両名の建造物侵入の所為は刑法六〇条、一三〇条前段、罰金等臨時措置法三条一項一号に、同威力による業務妨害の所為は刑法六〇条、二三四条、罰金等臨時措置法三条一項一号にそれぞれ該当する。ところで、右器物損壊と建造物侵入とは一個の行為で二個の罪名に触れる場合であり、また建造物侵入と威力業務妨害との間には手段・結果の関係があるので、被告人石井については刑法五四条一項前段、後段、一〇条により全体を一罪として犯情の最も重い威力業務妨害罪の刑により、また被告人渡邉については刑法五四条一項後段、一〇条により、より重い同罪の刑によりそれぞれ処断することとし、その上で被告人両名についてはいずれも罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人石井を罰金二〇万円に、同渡邉を罰金一五万円に各処する。

そして、被告人らにおいて右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により、金五〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。なお、訴訟費用については刑訴法一八一条一項本文、一八二条により、被告人両名の連帯負担とする。

(弁護人の主張に対する判断)

一器物損壊罪について

被告人石井新二は、当公判廷において、議会棟入口扉のガラスを割つたのは自分ではない、自分は先に他の者によつて割られて穴のあいていたガラスの周辺部をそのあとで蹴り、割り広げたにすぎない旨述べ、弁護人も右の事実を前提として被告人の行為は、既に損壊されて効用を失なつているものをさらに破壊したにすぎないので器物損壊罪にあたらないと主張している。

入口扉のガラスを最初に割つたのは誰かについて、最も明確な供述をしているのは、ガラスが割れた当時、右入口扉の正面方向にある階段踊り場にいて、違法事態発生時にそなえ証拠収集などの任務に当つていた警察官実川勝である。同証人は、当公判廷において、「警察部隊と押し合つていた集団の中の一人が、部隊と反対方向、つまり正面玄関の方に抜け出し、正面玄関の前あたりで一瞬立ち止まり、それから議場(議会棟をさす。)入口方向に走つた。見ると被告人石井新二であつた。石井は議場入口のところで立ち止まり、閉まつている入口ガラス戸に向いノブをつかんで押したりひいたりするような仕種をし、ついで両腕を顔の高さくらいに上げて、右ガラス戸のガラスを素手で三、四回叩き、続いて、議場入口に背を向けた姿勢でガラスを右足で蹴破つた。蹴つたのは一回で、これによつてそのガラスは割れた。自分の腕時計で時間を確認し、右隣りにいた部下に石井新二がガラスを割つたから写真を撮れと指示し、左隣りにいた副隊長にも石井新二がガラスを割つたと報告した。このため数秒位石井新二から目が離れたが、続いて同人の方を見ると、同人は中腰になつて右手をそのガラスの割れた部分から中に差し入れ、鍵を開けている様子であつた。そして、同人は議会棟入口のガラス戸を開けて中に入つて行つた。その間、石井のまわりに仲間がいるなどして視界を妨げられるということはなかつた。勿論、石井がガラスを蹴る以前にそのガラスが割れていたことはなかつた。」旨述べている。この供述は、全体を通じて極めて具体的かつ詳細であり、同人が被告人石井の行動について述べるところは、例えば石井だけが隊列を離れたこと、一旦玄関へ行つてから議場入口に近寄つて行つたこと、後向きで蹴つたことなどかなり特徴のある動作を含んでおり、実際に見たものでなければ語れないような内容をそなえてもいて信用性が高く、判示器物損壊の行為を認定する強い根拠になり得ると認められる。

これに対し、そのころ右階段の中段付近で写真撮影をしていた警察官和泉敏夫の写真撮影報告書には、まず被告人石井が議会棟入口から一二〜一三メートル位離れた町民ホール北側付近で他の反対同盟員と共に機動隊員らともみ合つている写真(和泉敏夫作成の写真撮影報告書中番号二四の写真)に続いて、被告人石井が議会入口扉から奥へ入つて行こうとしている姿が写つている写真(前同番号二五の写真)があるところ、撮影当時の状況について撮影者である右和泉敏夫は、当公判廷で証言し、番号二四の写真を撮つたのと同時かその直後くらいに、右入口扉の方から「ガチャン」という音が聞こえ、すぐその階段を二、三段早足で上つて踊り場に出て見ると、議会棟入口扉のガラスが割れており、被告人石井がその割れたガラスのまだ枠についている部分を蹴つていたので、カメラの構え焦点を合わせて写したのが番号二五の写真であると述べている部分がある。そこで、右証言のうち、番号二四の写真を撮つたのと同時かその直後ぐらいにガラスの割れる音を聞いたという点を強調すると、そのころ同被告人は町民ホールの方に居たことになる筈であるから、勢い入口扉のガラスを割つたのは石井とは別人ではないかということになりそうに思える。しかし、逆にガラスの割れる音を聞いて、二、三歩階段を上つた時、すでに被告人石井が入口扉の前にいて前記のような行動をしていたとの点を強調すると、割れる音がした時点と踊り場から見た時点との間には階段を二、三段上るだけの短時間しかなかつたのであるから、割れる音がした時には同被告人はすでに入口扉前に居合わせていた筈で、むしろ番号二四の写真撮影と「同時くらいかその直後くらい」という記憶ないし表現がやや不正確なのではないかということにならざるを得ない。そこで、報告書における写真の続き具合と右和泉の証言とを見較べてみるのに、番号二四の写真に続いて同二五の写真が写されているのは、おそらく同二四の撮影後にガラスの割れる音がするという異常な事態が生じたために、直ちにそちらヘレンズを向けて撮影し、それが同二五となつたもので、従つて割れる音のした原因、状況を直ちに確認しようとして撮影された同二五の場面は、「ガチャン」という割れる音のした直後ないし、間のない時点の状況と理解される。ここまでは、写真の続き具合自体によつて客観的に裏付けられているのに対し、番号二四の写真撮影と割れる音との時間差については和泉の証言だけによつているようであり、もともと番号二四と同二五にそれぞれ写つている地点間の距離は一二〜一三メートル位、従つて両地点間を被告人石井が移動するのには数秒間程度しかかからないと見られる関係にあることを考えると、前記和泉の証言がそのように短時間の時間差を正確に記憶し、かつ識別し、その上で正確に供述しているものと受けとつてよいかは疑問であり、むしろ、同二四を撮影してから同二五を撮影するまでの時間的間隔が短かかつたことを記憶・供述しているにすぎないものと受け取るのが供述の大きな流れとしては自然であろう。少なくとも、同人の右証言は、証人実川の詳細で、生き生きとした証言と対比すると、これを動揺させるようなものとは到底考えられない。

次に、反対同盟の一員で当時議会棟入口扉前付近にいたと供述する証人下野英俊は、「機動隊が役場庁舎内に入つてきたのがわかつたので議会棟の中へ入ろうとして議会棟入口辺へ行つた。近くに五、六人の者がいた。扉のガラスを何回か蹴つた。誰が割つたかは言いたくないが、そのうちガラスが割れたので、そこから手を差し入れて扉の鍵を開けると、石井新二が扉を開けて議会棟の中に入つた。自分は、この間ずつと右入口扉の前にいた。ガラスが割れた時に自分の近くに石井新二がいたかどうかわからない。扉が開いた時には石井新二はいたが、いつ来たのかわからない。割れたガラスの穴を拡げるようなことをした者はいない。」等と述べている。しかし、右下野の証言は、ガラスが割れた時の具体的な状況等肝心な点についてあいまいすぎるだけでなく、ガラスが割れた時点で、被告人石井がその場にいたかいなかつたかの点についても、いたと言つたりいなかつたと言つたりわからないと言つたりするなど供述が転々とし、更に、割れたガラス扉の枠についている部分のガラスを被告人石井が蹴つて、穴を割り広げたという、同被告人自身が公判廷で認めている事実についても、これを否定し、その上証人稲木智満の証言及び同人作成の写真撮影報告書中の二〇の写真によれば、警察部隊が町民ホール付近で反対同盟員らを役場庁舎正面玄関方向へ排除しようとしていて、被告人石井が議会棟入口扉前付近に到着する直前の時点ころには、右扉の前には、証言に反して証人下野を含め人影がないことが明らかであつて、同証言の信憑性に疑問を生じさせている等々のことを総合して考えると右下野証言は到底信用できないと言うべきである。

以上のとおりであるから、器物損壊の点は被告人石井の所為と認めるに十分である。

二建造物侵入罪について

被告人両名が議会棟入口扉から内部へ入り廊下を通つて本会議場内に立ち入つたという外形的事実については証拠上明白で実質的に争いはない。そのような行動をとつた理由につき、被告人石井新二は、「前日、相川議員を通じて電話で議会事務局に議会の傍聴希望があることを申し出て、了解を得ておいたうえで、本件当日、役場庁舎へ行つたのであるが、役場周辺には既に大勢の機動隊員が出動して警備に当たつており、役場職員に傍聴券の交付方を求めたのに、もう傍聴券は三枚だけで残りはないと言われ、何故そうなつたかの理由についても納得のゆく説明がなかつたので、議長や町長らに会つて直接傍聴券交付の交渉と、機動隊の出動が町当局の要請によるものか否かの確認をしようと考えて議場内に立ち入つたのであるから、正当な立ち入りであり、故なく侵入したものではない」と述べ、被告人渡邉哲夫もほぼ同趣旨のことを述べ、弁護人もこれを前提として被告人両名の本件議場侵入の行為は刑法一三〇条にいう「故なく」侵入した場合に該らないと主張している。

被告人両名が、議場内へ立ち入つた直接の目的が主として本件当日の傍聴券交付方法の不公正さをなじつて議長や町長らに責任ある説明を求めようとする点にあつたことは、証拠上認められる侵入の経緯や議場内に入つてからの被告人らの発言内容等に照らしおおむねこれを認めることができ、そして、当日の傍聴券交付方法や、もう傍聴券は残つていないという議会事務局や総務課など関係職員の説明・応対方法に割り切れない不透明、不公正さあるいはその疑いを増幅させる曖昧さがつきまとい、これに対する苛立ちが被告人らを議長との直接交渉へ向かわせたという心情は全く理解できないわけではない。しかし、いかにそのような目的のためであるとはいえ、そのためにどのような手段の行為でも許されるというものでないことは当然であつて、本件のように施錠された扉のガラスを蹴破つて解錠し、あるいは六、七名の者が一団となつて開会審議中の議場内へ大声をあげて立ち入るといつた態様の行為は、著しく隠当を欠き社会通念上相当な行為として容認される範囲を大巾に逸脱する違法行為であることは明らかと言うべきである。

三業務妨害罪について

1  弁護人は、町議会の審議・採決は、公務であり、およそ公務はそれがいわゆる非権力的公務であつても、公務執行妨害罪によつて保護されれば十分で、業務妨害罪によつて二重に保護されるとすべき合理的理由は存しないから、刑法二三四条、二三三条にいう「業務」には含まれないと主張している。

町議会における審議・採決等の職務が公務に属することは一見明白であるが、公務の中にも一部刑法二三三条、二三四条の業務妨害罪にいう「業務」に含まれるもののあることについては最高裁判所判例(同裁判所大法廷昭和四一年一一月三〇日判決・刑集二〇巻九号一〇六七頁ほか)の判示するところであり、当裁判所もこれを支持すべきものと考える。

ところで、町議会の審議等は、前述のように公務ではあるが、その職務の実態は議事手続等の面で一部厳格な手続法規による規制を受けてはいるけれども、それ自体外部の者に権力的作用を及ぼす性質のものではなく、一般私人や私企業、団体等が行う正式の会議に類似するものであつて、いずれも一定の社会生活上の目的、任務等を達成するために継続して遂行されるものとして、業務としての性質を併用するものというべきである。

右の実態を直視する限り、私企業や団体等の行うこの種の正式会議が刑法二三三条、二三四条の業務妨害罪の対象となることを認めながら、公共団体の行うこの種の職務は、それが公務であるというだけで同様の保護を受け得ないとし、その結果刑法九五条によつて、その職務執行中の個々の公務員に対する暴行・脅迫を手段とする妨害行為に対してのみ保護されるにすぎないとすべき合理的理由はないと考えられる。

弁護人は右の点に関し、そのように解することは、公務に対してだけ、公務執行妨害罪による保護のほかに威力業務妨害罪による保護を認め、私人の場合と異なる二重の保護を与えることになり不当であるかのように言う。その意味が、かりに審議自体が業務に該るのに、同時に個々の職務を執行中の議長・議員、関係職員等に対する暴行、脅迫が公務執行妨害罪に該るとするのは不当であるという点にあるとするのであれば、それはあたらない。一般私企業や団体の会議等の場合に、その業務が業務妨害罪の対象とされるほか、その業務に従事中の社員その他の構成員に対する暴行、脅迫がそれぞれ暴行罪、脅迫罪に該るとされることと対置して考えれば、それがなお合理的範囲内にあることは明らかだと考えられるからである。

尤も、公務の中で、一部業務妨害罪にいう「業務」に含まれるものがあることを肯定した場合にも、その範囲・限界については、これをいわゆる非権力的業務という一義的基準だけですべての場合を過不足なく律し切ることができるかどうか(あわせて別個の基準を導入し、その総合判断を要する場合がないかどうか)なお事例によつては検討を要するものが残るかも知れない。しかし、少なくとも、本件町議会における審議等の職務について考える限り、前記の基準によつて議会事務の実態を評価するだけで結論の合理性は明らかだと言うべきである。

以上により、町議会の審議は、刑法二三四条にいう「業務」に該ると考えるのが相当である。

2  次に、弁護人は、町議会の審議等が、一般的には、業務妨害罪による保護の対象になりうるとしても、本件当日の芝山町議会は、多数の傍聴希望者に法律上保障されている傍聴の機会を適法に与えることなく開会、進行されたものであつて、憲法九三条・地方自治法一一五条一項に違反する違憲・違法な議会であり、その点で業務妨害罪によつて保護されるべき業務に該当しないと主張している。

しかし、本件町議会が法定の手続に従つて召集され、開会・進行中であるときは、かりにその手続等の一部に瑕疵があるときにも、そのことによつて直ちに現に進行中の議事手続等の全体が当然に無効等となるものではないのであるから、少なくとも瑕疵の存否、程度等が明らかにされるまでの間は、まず当該議事手続の平隠な進行が保護されなければならないことは自明である。瑕疵があると考えるときにも、だからといつて現に開会中の議会手続を実力で妨害、阻止してもよいというものではなく、瑕疵の存否を確定すべき別個の手続において平隠にその主張をし、これに理由があるときは、是正のために認められている手続を通じ、かつその事柄の性質に相応して必要な是正措置が講じられるようにするのが筋道である。

これを本件に即して見るのに、本件当日の町議会の運営上、かりに傍聴券交付方法に法律上問題があり、あるいは、議会周辺の混乱のため傍聴人が入れないまま開会した議長の判断に運用上問題があつたと仮定したときにも、そのことによつて現に議会内で進行中の手続が直ちに全部無効となり、あるいは議会の議事手続と認められなくなるといつたものではないこと明らかなのであるから、手続上の瑕疵を主張する議員が、所定の手続に従つて議会内でこの点の討議をするのは格別、これに不満を持つ外部の者がてんでに実力を行使して議事の進行を妨害するなどということが許されるものではない。現に平隠に進行中の議会手続は、それに対する瑕疵の主張に理由がないときは勿論、理由があるときにも、原則としてそのことが後日別途明確にされ、必要な是正措置が講じられるまでの間は、刑法二三四条にいう「業務」として、平隠な進行を保護されるべきものであると考えられる。

四共謀について

被告人石井新二は、当公判廷において、「自分は議会棟入口の扉を開けて中に入る際、付近にいた仲間の反対同盟員や支援者らに一緒に行こうとかついて来いという趣旨のことを言つたことはなく、当時は、一人ででも行こうと思つていた。そして議場に向つて歩き出したころにも、自分に続いて仲間の者が来るとかあるいは来ているということはわかつていなかつた。」旨述べ、被告人渡邉哲夫は「自分は何人かの者と議会棟内に入つたが、そのころ相被告人の石井新二が、先に入つていることはわからなかつた。」旨述べ、弁護人は、そのような事実を前提として被告人両名の間には、建造物侵入についても業務妨害についても共謀はなかつたと主張している。

たしかに、本件証拠上、被告人両名の間において、事前に建造物侵入あるいは、業務妨害について具体的・明示的な共謀がなされたことを示すものは見当らない。しかしながら、司法巡査(和泉敏夫)作成の写真撮影報告書中番号二五の写真には、被告人石井が議会棟入口扉を開けて議会棟の中へ入ろうとしているところが写つているほか、その周辺に同被告人に続いて議会棟廊下内へ入ろうとしている様子の者が数人いるように見えること、そして、実際、同被告人に続いて被告人渡邉ほか数人の者も相次いで議会棟内に入り、その上で被告人石井を先頭とし、続いて入つたものも一団となつて議場内へ乱入し同一行動に出ていること、議場内では、議長らに対して口々に罵声を浴びせ、議長の再三の退去要請を無視して退去せず、議場に導入された警察官らによつて議場外へ連れ出されるまでの間、被告人両名を含む六、七名の者が共同行動をとつていること等の一連の状況に照らすと、判示のとおり、被告人石井が、前記入口扉のガラスを割り、さらにその破れ目から手を差し入れて同扉の施錠をはずし、議会棟の中へ入ろうとしたころには、被告人石井において、自己の行動が仲間の者の支持を受け、それらの者の中に自己に続いて議場に侵入し、共同行動をとる者が出てくるとの認識や期待があり、また他の者も被告人石井の右の行動を見て呼応し、更にそのあとに続く者があるとの気持で順次入つていつたものと認められ、こうして被告人渡邉を含む数人の者との間においても暗黙のうちに順次意思を相通じた状態で判示犯行を実行したものと認めるのが相当である。

五なお、弁護人は、被告人両名の行為はいずれもいわゆる可罰的違法性を欠く旨主張している。しかし、かりに傍聴券の配布に関し不公正な点があつたとしてもその是正を求めるため、施錠中の入口扉のガラスを割り、開会中の議場内に多人数で乱入し、喧騒な行為に及ぶという方法に訴えることは、やはり、手段においてはなはだ相当性を欠き、実質的に違法行為であることは明らかであり、到底可罰的違法性を欠くと言うことはできない。

(量刑理由)

一開会中の町議会内という、およそ言論の府であるべき場所へ、集団で乱入し、喧騒な言動に及んで審議を妨害するという行為は、議会制の根本にかかわる性質の問題であつて、これにより現実に審議が妨害された時間の長短や、妨害された議事の内容・程度にかかわりなく、一般に強い非難を受けるべきことは当然である。なかでも、議会で自由に討議・決定されるべき事項、本件に即して言えば、当日町議会で採り上げられる予定であつたいわゆる成田空港二期工事促進決議案に対して、例えば、反対であるとの立場から、議会での自由な討議に実力による圧力を加え討議の結果を左右しようとするような行為は、いわば暴力による言論の圧殺に等しく、事柄の性質上厳正な対処が必要である。

二しかし、本件における被告人らの行為は、審議に対し、右のような意味での暴力的圧力を加えようとしたものではない。審議内容に対する賛否とは別に、審議状況を傍聴席で傍聴するのに必要な傍聴券を通常の手続に従つて交付するよう要求するための行動と見られる範囲内にあつたと認められる。このことは、被告人らが本件当日町役場庁舎に到着後まず一階事務室カウンターヘ行つて担当職員に傍聴券の交付を求め、すでに大半の傍聴券が交付済であるという議会事務当局関係者等との間で、当日の券交付がどのように行われ、その結果交付済となつているのかを尋ねるやりとりにかなりの時間を費し、当局者から明確な説明が一向になされないうちに午前一〇時、すなわち議会開会時刻を経過し判示のとおり議場内へ乱入したのちにも、議長等に対する発言内容は議事内容に関するものではなく、傍聴券交付手続が何故通常通り行われないのかという点に集中していたこと等からこれを認めることができる。もとより、右のような事項に関するときであつても、多数で議場内に乱入するというような行為が許されてよいわけはなく、議場内の秩序保持には最大の敬意がはらわれなければならない。しかし、交付されるべき傍聴券が真実、正常に交付されていないため緊急にその是正を求める必要があつて議場に入るというような例外的な事情があるときは、等しく議場内に乱入した場合であつても、議事内容自体に圧力をかけ自由な審議を妨害するために入る場合とは自ずから異なつた評価を受けることがあるのはやむを得ないところと思われる。

ところで、証拠によると本件当日の傍聴券交付をめぐる議会当局側の対応には、以下に述べるとおり、被告人らに対して拭い難い不公正感ないし疑惑をいだかせかねない特異な言動が目立ち、しかもそのことを放置したまま議会開会を強行したことが傍聴を希望して押しかけていた被告人らの反撥を招き、本件を誘発した事情のあることを否定できない。したがつて、被告人らの判示行為に対する量刑上の評価をするにあたつては、同時にその間の事情についても検討しておくことが必要である。

三まず、当日の傍聴券は、石山議長の裁量により、合計三〇枚中、警備用三枚、報道用五枚を除いた残り二二枚を一般傍聴券として交付することとされていた。傍聴券は、通常は執務開始時である午前八時三〇分ころ交付開始となるが、同日の朝はこれを繰りあげて、午前七時四〇分ころから鵜ノ澤議会事務局長の手で交付が開始され、早出して来た三人の保守系議員に対し合計一八枚が次々交付されて、通常の執務開始時間ころには一般傍聴券の残りは一応四枚のみとなつていたようである(尤も固定傍聴席は合計二七席しかなく、実況見分調書によれば補助席は設けられていない。従つて、うち一般傍聴席は一九席しかなく、一八枚交付後は残り一枚しかなかつたのではないかとの疑いもある。)。被告人らは、前日の一六日午後相川議員を通じて議会事務局長に対し本件当日の傍聴希望がある旨申し出ており、その際には議会事務局から格別いつもと違つた応答もなかつたところから、右一七日の傍聴券交付は、通常時と同様午前八時半前後から開始されるものと考え、午前九時ころに町役場庁舎へ到着したものであつたが、到着してみると、一階事務室カウンター前にはすでに反対同盟北原派と見られる人達が列をつくつて並んでいる状況であり、その脇を通り抜けてカウンターに近寄つた被告人らが、前日電話で通告し頼んである傍聴券の交付を申し出たところ、もう大半交付済で残つていないとか、三枚位しかないというような意味の返事であつたため(そのころ鈴木議員に最後に一枚交付された時点では、固定傍聴席二七席を前提として一般傍聴券としては一九枚目にあたる最後のものという理解を事務局員の中にもしているものがいたように窺われる。)、当日どのような交付方法をとつたのか説明を求める声が相次ぎ、事態は粉糾することとなつたものである。

(2) ところで、同町議会の傍聴券交付方法については、従来明確な取扱規定はなく、通常執務開始時である午前八時三〇分ころ以降議会事務局へ紹介議員が直接出頭した上紹介を申し出て、必要枚数の交付を受け、これをその議員から傍聴希望者へ交付するという方法によつて行われて来たが、これまで傍聴券発行枚数よりも傍聴希望者が多くなつた例はなく、また報道用・警備用として必要枚数を除外した先例もなく、右程度の大雑把な運用でもとくに支障はなかつた。従つて、一七日の二期促進決議案が議会に上程される際の審議を傍聴するため、賛成派、反対派の両派から傍聴券枚数を超える傍聴希望者が押しよせることがあつたとしても、議長としては、最低限これらの者を平等に取り扱い、平常時と同様の公正な交付方法をとれば足りた。その結果として、例えば通常の券交付開始時間に保守系議員が早く到着し、そのために多くの枚数の傍聴券を入手することができ、反対に被告人らは午前九時ころおくれて到着したために残り枚数が少なくなつてしまつたということがあつたとしても、それはそれでやむを得ないことと言うべき筋合いである。議員が自派提出の議案を平隠裡に可決、成立させようとの思惑から、支持者をいわば動員して傍聴席の独占ないし反対派の締め出しをはかることが、好ましいことかどうかは別としても、傍聴券の入手が、正規の手続を経て行われている限り、これを不当で容認できないとする根拠は存しないのであるから、やむを得ないこととしなければならないであろう。実際、被告人らの到着は北原派の人達よりもおくれていたのであるから、それだけ券の入手が困難となつても致し方なく、そのことに対して抗議したり、不当と騒いだりしうべきものではない。

(3) しかし、このように言いうるためには前提を一つ置かなければならない。それは、議長によつて最終的に管理されている傍聴券交付手続が、傍聴を希望しているどの派の者達にも偏ることなく公正に行われなければならないとの一点である。例えば、議長が保守系出身で、個人的に二期促進決議案に賛成の立場にあるからといつて、立場を同じくする保守系議員と通じ合つて、傍聴券交付の手続をそれらの者に有利となるよう恣意的に運用するという事態になれば、議長が自らに課せられている公正・中立な立場を進んで放棄し、議会のあり方を自ら歪めるものとなり、その裁定には反対派の者も服すべきであるとする根拠を失うに至るからである。

ところが本件で問題となつている一七日当日の傍聴券交付手続には、被告人らがこれを不公正として承服しないのもあながち理由のないことではないと思わせる疑問点が多いこと以下のとおりである。

(イ)  当日の傍聴券交付は、紹介議員の先着順といういつもと同じ方式で行われたので、方式の点では公正さに疑問をはさむ余地はない。しかし、何故か交付時間をいつもより繰りあげ午前七時四〇分ころから開始され、そのころ保守系議員が相次いで出頭して大半の傍聴券の交付を受けてしまつている点には疑問がある。石山議長は、当日の朝、自らいつもよりかなり早い午前七時三〇分ころ登庁したこと、及び当日朝までに議会事務局長に電話連絡をとつて同人にも早く登庁するようとくに求めたことの理由につき、当日の朝二期促進決議案が提出される予定であつたことや議会運営委員会の開催予定があつたことをあげている(但し、右委員会の開催時間については、同人の供述内容は前後くい違い、一貫していない。)。ところで、右の手続があつたこと自体はそれなりに理解できるところであるが、しかし、当日早朝事務局長に電話連絡した用件中に、傍聴券の交付方法にふれて報道用五枚、警備用三枚というそれまで交付した先例のない枚数割当を指示している部分と、残りの一般傍聴券は先着順に紹介議員に渡すべき旨の殊更らしい指示をした部分とが含まれていること、そして案の定、当日に限つて保守系議員が次々先着し交付を受けている奇妙な符合関係には注目せざるを得ないのである。右議長は同月一五日、一六日の両日、証言中にいう共同利用施設で保守系議員と会合し、二期促進決議案を預るなど緊密な連絡を保つており、他方その有力提案者の一人である伊藤丈議員からは三月九日議会が開会された際に、議員一人あて交付される傍聴券枚数に制限がないか確かめる発言があつて、明確な制限がない旨の結論に落着していたいきさつがあつたのに続いて、前々日の一五日ころから議会事務局に対して傍聴券交付方申し入れがなされていたのである。これを卒直に眺めれば、議長から一七日早朝、議会事務局長に対して傍聴券交付について前記のような指示がなされた時点においては、先例のない警備・報道用傍聴券を除外してさえおけば、残りの一般傍聴券がどの筋の傍聴希望者に交付される結果になるか、割当見込みについて具体的な見通しが立つだけの情報があり、それ故にまた前記のような指示がなされたのではなかつたかと、格別の反証でもない限り、考えるのが自然な情勢であつたと考えられるのである。

そうだとすると、議長が当日に限り傍聴券交付時間を繰り上げるよう議会事務局長に指示した真のねらいは、表面上は単に交付時間の繰り上げ運用をしているだけのように見えて、実際には、繰り上げ交付の予定を保守系議員だけは知り得たであろうこととのからみで、傍聴券の大半を賛成派の者達だけで独占し、反対派を締め出すことができるとの見通しに立ち、その目的に沿つて運用しようとする点にあつたと疑われても有効な反論が難しい事情にあるように思われる(なお、本件証拠中には、報道用五枚が真に報道機関からの申出にかかる必要枚数であつたとの証拠はない。そして総枚数三〇枚という点にも疑問が残ることについては上述のとおりである。)。

(ロ)  このことは、本件当日議会事務局関係者の中に、誰一人として被告人らに対して、正面から堂々と、何故傍聴券の残りがないか、又は三枚しかないか等の理由説明を明確に行う者が居なかつたという、どうにも納得できない事実からも疑われる。すなわち当日議会事務局長は、一般傍聴券中一八枚を保守系議員に交付した上その残りを、あらかじめ警備用及び報道用として除外しておいた八枚と共に高橋事務局員に渡し、受け取つた同人は、その後これを平岡総務課員に引き継ぎ、同人保管中にうち一枚が鈴木議員を介してその傍聴希望者に交付され、残りがないか又は三枚となつた状態のときに紛議がもち上がつたのであるが、そののちは、議会事務局長等傍聴券交付の当面の責任を負う者はもとより、成り行き上応対することとなつた総務課長以下の関係職員の誰も、当日の傍聴券がどのように公正に交付されたかをつめかけた者たちが最も問題としていることを知りながら、全く説明しようとせず、ただ口々に残り枚数を三枚と言つたり、留保分から三枚まわすのでこれで何とかならないかとの収拾策を持ち出したり、時にはもう傍聴券はないと言つたりという全く収拾のとれない応対に終始し、何故交付方法が公正ならばその点の説明をしないのか、全く理解できない状態を長時間放置したままにしていたのである。そして、そのような状態で議場の外では紛糾が続いているのを放置したまま、議会が開始されることとなつたため、勢いこれに不満をもつ被告人らは、議場の外に居る当局者からきちんとした説明を得られないのならば議会の中にいる責任者から確かめる外ないという動きとなつて本件に至つたと見られるのである。どう見ても、議会関係者が何故はつきりできなかつたのか疑問が残るのである。

(ハ)  更に、納得できないのは、もし石山議長の証言どおり、真に三〇枚の傍聴券を交付する予定であつたのならば、一九枚の一般傍聴券が交付されたあとの三枚が議会事務局関係者の手中に残つていた筈であるのに、この三枚は同日議会終了までついに交付されないで、いわば宙に浮いたまま終つている点である。傍聴券の枚数が問題となつているのに、残り枚数をはつきりさせず、交付しないで終るという不手際が何故生じているのか到底納得できるものではない。

証人高橋、同平岡ら、当日右傍聴券保管・交付の任にあたつていた者らは、三枚が残つていたかの如くに当公判廷で述べる。しかし、同証人らをも含めて議会関係者らの当公判廷における供述は、証人田鍋ほか若干名を除いて、全体に極めて曖昧で、辻褄合わせをはかろうとしているのではないかとの印象を与え、直ちには信用しかねる点が多い。混乱状態を見かねた前議会事務局長田鍋は、自己のみの判断で議長のもとへかけ合いに出向き、警備用及び報道用として留保してあつた八枚中の三枚を割愛することにつき議長の諒解を得、これで収拾できないかどうかを被告人らに持ちかけたようであるが、この経過は少なくとも同人にとつても、一般傍聴券は残つていないと理解された、当日のその場の雰囲気を反映しているように感じられるのである。

(4) 以上のように見てくると、本件当日の傍聴券交付は、本来中立公正であるべき議長が、保守系議員の動きにことさら呼応して一方に有利になるよう交付手続を進めさせたのではないか、それ故にその経過を責任をもつて説明できる者が居なかつたのではないかと被告人らが受け取つたとしても、これを一概に当たつていないと一蹴することのできない様相を強く帯びていたと言わねばならない。このような特殊な事情のもとにおいては、これに対して立腹・反抗した被告人らの本件行為のみを一方的に強く非難することは片手落ちの感を免れない。傍聴人等が議会の自由な審議に口出しすることが許さるべきでないのと同様に、公開を原則としている議会の審議に関し、議長その他の議会関係者らが、傍聴券交付の方法を恣意的に運用し、一派の者だけを事実上優遇する結果となるような偏ぱな手段を弄することも許されるべきではないのである。

四ただしかし、当日の議会当局者の対応に上述したような納得できない措置が目だつたとしても、だからと言つて被告人らにおいて、判示のような粗暴な実力行動に出ることを正当化しうるものでないことは当然である。とくに被告人両名とも前に執行猶予付懲役刑の判決を受けたことがあり、本件当時はその執行猶予期間中であつた(被告人石井は、昭和四四年八月発生の住居侵入、暴力行為等処罰に関する法律違反により同五七年六月当裁判所において懲役一〇月、四年間執行猶予に処せられ、また、同渡邉は、昭和五三年二月発生の兇器準備集合その他の罪により同五九年二月当裁判所において懲役一年六月、四年間執行猶予に処せられている。)のであるから、両名ともこの種粗暴事犯に対しては格別の自戒と慎重な行動が求められていた筈と考えなければならない。それにもかかわらず、被告人石井は率先し、中心となつて本件各犯行を実行し、他の者らをこれに巻きこんだこと、同渡邉は今回はこれに追随して行動した側面が強いこと、その他の諸事情のほか、被告人らの身上、家族関係、生活状態、破損したガラス代については被告人らの側から弁償の申出がなされた経過のあること等諸般の事情を量刑上考慮し、熟慮を重ねた上で、本件についてはとくにその発生の経過、行為の内容・性質等に照らし、主文のとおり量刑するのを相当と認める。

(求刑 被告人石井に対し懲役八月、被告人渡邉に対し懲役四月)

(秋山規雄 小出錞一 井口 実)

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